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パワーデバイスのエキスパート、京大発ベンチャー企業へ

株式会社FLOSFIA取締役CTO 研究開発部 部長四戸

京都大学の研究グループが開発した技術を独自に発展・応用させ、酸化ガリウムという材料に着目してパワーデバイスの開発に取り組む株式会社FLOSFIA(フロスフィア)。創業8年目を迎えるこのベンチャー企業は今、製品の量産化という新たなステージを迎えている。そこに新メンバーとして加わったのが四戸(しのへ)孝取締役CTO・研究開発部部長。前職の大手半導体メーカーでSiC(シリコンカーバイド)の初期研究から事業化までを一貫して経験し、国のプロジェクトにも参画したパワーデバイスの専門家だ。その四戸氏がFLOSFIAで新たな挑戦をしている。

コランダム構造酸化ガリウムという新材料で、パワーデバイスを開発するベンチャー企業

FLOSFIAは2011年に設立された京都大学発のベンチャー企業。主事業はコランダム構造酸化ガリウムという新しい半導体材料を使ったパワーデバイスの開発だ。2015年、同社は半導体業界が驚くような研究データを発表した。「酸化ガリウム(Ga2O3)を用い、世界最小(同社調べ)のオン抵抗である0.1ミリオーム平方センチメートルのショットキーバリアダイオード(SBD)の開発に成功した」というものだ。

これは半導体材料の主流を成すSiC製の他社SBDと比較すると86%ものオン抵抗低減となり、超低損失で低コストなパワーデバイスを実現可能にする画期的な研究成果となった。同社はその後、この実績を足掛かりに新材料に特化したパワーデバイスの開発に力を注いでいる。その取り組みは「大学発ベンチャー表彰2017」で賞をとるなど外部機関からの評価も高い。

そして2018年、同社は自社製品の量産化に向けて動き出した。パワーデバイスが必要とされる領域は電化製品から産業用機器まで幅広い。特にEV化が進む自動車は今後の重要領域だ。同社は車載をはじめとする多様な領域に対応する製品ラインアップを視野に入れ、複数の大手企業から出資を受け共同開発に乗り出した。そこに迎え入れたのがパワーデバイスのエキスパート、四戸氏である。

パワーデバイス分野での多彩な実績

四戸氏の経歴はパワーデバイス一筋と言ってもいい。大手半導体メーカーの研究開発センターで一貫してパワーデバイスの研究開発に携わった。特にSiCの材料開発には19年間にわたって取り組み、基礎的な研究からデバイスの開発、ユーザー事業部との共同開発、製造部への技術移管までを担った実績を持つ。

その一方で数多くの国家プロジェクトにも参画している。たとえば国内の企業が集まりSiCで次世代のパワーデバイスを開発する「超低損失電力素子技術開発」プロジェクト、パワーエレクトロニクスで省エネルギー化の推進と産業競争力の強化を図る「次世代パワーエレクトロニクス」プロジェクトなど。そして製品の評価方法を統一することでパワーデバイスの普及拡大を図る「SiCエピ/ウェハに関する国際標準化」プロジェクトでは統括責任者を務めた。また、この分野で産学官が情報共有、意見交換、研究開発連携を進める一般社団法人でも企画委員長として活躍した。研究開発から普及活動まで、パワーデバイスの発展に力を尽くしてきたといえる。

「ユーザーにSiCパワーデバイスを理解してもらうために、セミナーや学会、講演会などの依頼が来たときは積極的に引き受けていました」と四戸氏。その活動に比例して業界での知名度は高まっていく。FLOSFIAと縁がつながったのもその一環だ。都内で行われたある講演会の場で、同社の人羅(ひとら)俊実代表取締役社長CEOから声をかけられたのがきっかけだ。

うちの会社に力をぜひ貸してほしい

人羅氏は四戸氏の入社を「来ていただいた」という言葉で表現する。「われわれの業界で論文を書こうとすると、彼が書いたSiCの論文にたどりつく。SiCの研究を立ち上げから事業化までやって、高い評価を得ている人は世界中を探しても数人いるかどうか。彼の実績はそれほど素晴らしい」とたたえる。そのため声をかけたときも「うちの会社を助けてもらえたらうれしいという気持ちだった」と振り返る。

同社は今、コランダム構造酸化ガリウムを用いたパワーデバイスを量産化するタイミングに差し掛かっている。しかも製品は一つではない。複数の製品を秩序だった組織で動かしていかなければならない。人羅氏はそれらを統括する役割を四戸氏に依頼した。「量産化に向けてやらなければならないことはたくさんあるが、彼はSiCでそれらを一通りやっている。必要なことと不要なことをわかっていてポイントを押さえてくれる。生き字引のように何でも知っている人なので、知見を出してもらえるのは本当にありがたい」と話す。

また、若いメンバーたちのマネジメントにも期待している。「これから当社は大きく成長していき、そのステージに合わせた適切なマネジメントが求められる。そこにもぜひ力を貸してほしい」。前職で研究チームを率いてきた四戸氏の手腕に期待を寄せる。