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EXECUTIVE

革新的なビジネスモデルを打ち出す、
害虫防除業界の仕掛け人

環境機器株式会社代表取締役社長片山淳一郎

父が創業した会社を継ぐ

害虫防除というニッチな市場で戦略的なビジネスを仕掛けるのが片山淳一郎代表取締役社長である。同社の業績が目に見えて伸び始めたのは、2000年に片山氏が社長に就任してからだ。

片山氏は京都大学法学部を卒業。在学中は外交官を目指していたが、就職活動で進路変更し、株式会社日本興業銀行(現・株式会社みずほ銀行)に就職した。その後、銀行を辞め、奨学金を利用してイギリスのケンブリッジ大学に入学。途上国の開発経済について学び、経済学修士号を取得して帰国する。

当時の環境機器は、創業者である片山氏の父の急逝に伴い、母が経営を担っていた。片山氏は噴霧器のことも殺虫剤のことも知らなかったが、「大企業での勤務や海外でのアカデミックな経験をさせてもらったので、今度は中小企業の経営に挑戦してみよう」と当時零細企業だった家業を継ぐ決意をする。入社後は海外業務の担当を経て、34歳の時にいきなり代表取締役社長になった。

「当時の会社は町の零細工場のようなもの。真面目に手堅くはやっていたのですがこのままでは会社は成長しないと思い、やり方を変えていきました」と片山氏。「ニーズを教えてもらうためにはまず自ら発信しなければならない」と考え、同社の顧客である害虫防除専門業者を集め手探りで勉強会を始めた。それが年間100回以上の無料セミナーへと発展していく。

「差別化」と「回収」で組み立てられた戦略

片山氏は同社のビジネスモデルの仕組みを「差別化」と「回収」という言葉を使って説明する。「無料セミナーは害虫防除専門業者さんがなかなかアクセスできない最先端の技術情報や経営戦略の紹介など、高度で分かりやすい内容となっており、参加者からはとても感謝されています。当社が扱っている商品の大半はメーカー品なので競合商社からでも購入できますが、業者さんは無料で有用な研修を行っている当社を主な購買元として選んでくれる。つまり一見赤字と思えるセミナーで“差別化”して、商品の販売で効率的に収益を“回収”しているのです」

片山氏はこの仕組みを他の事業にも応用している。2011年、同社が中心になって「日本長期住宅メンテナンス有限責任事業組合」を設立した。顧客でもあるシロアリ防除業者を施工業者としてネットワーク化し、組合という組織にして、大手不動産会社や工務店、また大手流通業者から木造一戸建ての住宅メンテナンスを請け負う事業だ。

「もともとシロアリ駆除は家のメンテナンスのひとつ。床下にもぐるなら、ついでに断熱材や防水、塗装の点検もできるんじゃないかと思ったのです」と設立動機を語る片山氏の念頭には、この取り組みで顧客であるシロアリ防除業者の事業多角化を支援するビジネスモデルがあった。

同社はこの組合の運営事務局となり、住宅点検業務の標準化、サービススキームの開発、住宅履歴書データソフトの開発、研修会の実施、大手企業への導入提案などを行っている。このような仕組みづくりを通じてシロアリ防除業者の経営課題である事業多角化、技術力の向上、信用力強化をバックアップしているのだ。

ビジネスの中核を担う存在でありながら、この事業で同社は収益を期待していない。組合費や手数料を低く抑え、シロアリ防除業者の利益を優先して協力が得られる仕組みにしている。「組合員が多角化できれば請け負う仕事も増える。現場で使うために購入する資材も増えるでしょう。それらを当社から買ってもらえれば十分収益化はできるのです」。IT産業によくみられるフリーミアムに近いビジネスモデルのB2B版とも言える組合事業で「差別化」し商品の販売で収益を「回収」する、それが片山氏の基本的な戦略だ。

事業は常に利他の精神で

戦略性に富む片山氏の経営哲学は「利他経営」だ。常に俯瞰的に全体を捉え、顧客を含めた周辺の各プレーヤーに利益が行き渡るように仕組みを考え、かつ自社が共に繁栄することを目指す。片山氏が仕掛けるビジネスの根底には、いつも利他の精神が流れている。「事業に関わる全員がWIN-WINになる仕組みをつくることが、遠回りに見えて中小企業にとって最適最短の戦略なんです」。利他の精神と自社の収益性、かつ社員の物心両面の充実は全て同時に成り立つと片山氏は語る。

利他経営を示す一例として社会貢献活動もある。2011年の東日本大震災後には、同社の専門性を生かした復興支援を行った。被災した水産加工場から大量のハエが発生したため、同社が中心になって害虫防除業者の社員を動員し、害虫駆除を行ったのだ。延べ6,000人が東北の沿岸部約400キロメートルをカバーする大プロジェクト。同社がリーダーとなり、立案、技術的な判断、行政や住民との調整など、実務的な本部機能を担った。この支援は東北の人々から感謝され、大臣表彰を受け、海外での学会でも稀有な成功例として発表されただけでなく、参加した害虫防除業者たちの誇りにもつながった。そしてもちろんその副産物として、同社に対する顧客の信用が増すことになった。

片山氏は「将来的にやりたいのはアフリカなど途上国におけるマラリアなどの感染症防止。そのため、蚊などの媒介昆虫の画期的な防除方法を開発したい」と展望を語る。もともと同社は環境衛生のための薬剤を施工する噴霧器の製造販売からスタートした。片山氏の父は噴霧器の輸出のために中東やアフリカを駆け巡っていたという。片山氏はそんな父の姿を見て外交官を目指し、イギリスでは途上国の開発経済学を修めた。自分のやりたかった夢と同社の専門性が交わる仕事、途上国支援が片山氏のライフワークだ。