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HIGHLIGHT

写真の力を信じて、世界を変える。
茨城で生まれた異色の写真館のあくなき挑戦

株式会社小野写真館

大口取引先との決別。
ビジネスの川上に立つためにすべてを捨てる

「すべてを打ち切る」。入社間もないころの、小野氏の勇気ある決断がすべてのはじまりだった。2006年当時、まだ支店もなく田舎の写真店だった小野写真館は、ブライダル業界のピラミッドのなかで、大きな式場の下請けとして長らく仕事をしていた。衣装や引き出物などを決める内覧会で、写真について決めるのは必ずといってよいほど最後。

すでに予算をオーバーしている人が大半で、話を聞く前から「一番安いやつでいいよ、お金はかけないで」と言われることも少なくなかった。数百万円かけて式を挙げても、結局残るのは写真。なのに誰も写真に価値を感じていない。悔しさは募っていった。

「自分たちの商品価値は自分たちで決める」。それこそがビジネスの鉄則と考えていた小野氏は「一生涯で一番大切な写真を残すために式を挙げる」、そんな文化を根付かせるためにブライダル業界の川上に立つことを決意する。しかし下請け業務の売上は年間数千万円。川上に立つことは、これまで仕事をくれていた式場を敵に回すことになる。

売上が激減するのは間違いない。けれど、何もしなければ数年後に経営が立ち行かなくなるのは、小野氏の目には明らかだった。だから攻めた。いや攻めるしかなかった。そして社運をかけ、競売で落とした施設を改装し、ブライダル施設「アンシャンテ」を立ち上げた。700億円規模といわれるスタジオ写真市場から、2兆円ともいわれるブライダル市場への挑戦だった。

結婚写真の概念を変えた「ブライダルフォト」

こければ倒産の覚悟で2006年に立ち上げた「アンシャンテ」は、「ブライダルフォト」という新たな概念をブライダル業界に吹き込んだ。二人の出会いの場がゲレンデならスノーボードと一緒に、出会いのきっかけが音楽なら楽器と、思い出の場所が水族館なら現地まで行って、二人のストーリーを重視した、型にハマらない撮影は、若い新郎新婦のニーズをがっちりとつかんだ。

また撮影を通じた二人の思い出の再「体験」も評判を呼んだ。ドレスショップも併設し、メイクも内製化した「アンシャンテ」はコストパフォーマンスも高く、県外からもたくさんの客が訪れるほどの成功を遂げる。

2008年には「アンシャンテ」の成功を「ウェディングセレクトショップ水戸」へと投資し、ブライダルプロデュース業にも進出。さらに2010年、「アンシャンテ」と世界観を異にする、フォトウェディングが可能な1日2組限定ガーデン付き邸宅「アンシャンテ ナチュレ」をオープン。ブライダル事業を拡大していった。

そして同年、呉服市場へと打って出る。ここでも強みになったのが、成人式撮影を行ってきた写真館での経験だった。そう、小野氏が語る「何もしていない」の真意とは、「これまで写真館で培ってきた高い撮影技術を生かしただけ」ということ。マーケットを変えれば、その技術が他にはまねできない強みになる。そこに気づいたのだ。

2030年には売上100億へ。世界へと広がる夢

「人生で一番美しい 20歳という瞬間を美しく写真で残す」。成人式や卒業式の撮影は振袖の付属のような扱いだった呉服市場において、写真を強く打ち出した「二十歳振袖館Az」は特異な存在だ。さらにSNS隆盛の時代にもマッチする。20歳前後の若者たちは自分らしくこだわって撮影した姿を次々とSNSに投稿していき、「二十歳振袖館Az」の評判は口コミで広がっていった。

縮小傾向とはいえ呉服市場も3,000億円規模。「二十歳振袖館Az」は、わずか5年でひたちなか店、つくば店、水戸店、日立店と相次いで茨城の主要都市にオープン。成人振袖事業は小野写真館の基幹事業へと育っていった。その成功はブライダル事業への投資に跳ね返り、新たにウェディングレストランの展開へとつながっている。

またブライダルと成人式を切り離したフォトスタジオは、キッズとファミリーに特化した写真館というブランド構築に成功。本家の「グランフォト小野写真館」に加え「フォトスタジオCocoa」を県内に3店舗運営するまでに拡大している。さらに2015年12月に「アンシャンテ横浜店」をオープン、2016年1月に「フォトスタジオCocoa横浜店」をオープンし、「二十歳振袖館Az」の首都圏進出も間近だ。

しかし、その視線はさらに遠く、東南アジアへと向けられている。「写真の価値をちゃんと伝えたい。そして根付かせたい。そのためには少なくとも100億を超える事業規模がなければダメだと思っています」。そう語る小野氏は、人口が急増し、経済発展著しい東南アジアへ何度も足を運び、現地進出の基盤づくりを進めている。

「2030年、売上100億」。そのためには、アジアでの展開が不可欠だ。小野写真館が掲げる企業ミッションは、「世界に『笑顔』『幸せ』『感動』を連鎖させる」。茨城で生まれ育ったブランドが今、首都圏へ、そして世界へと羽ばたこうとしている。小野写真館がファインダーからのぞく景色は、どこまでも広がっている。