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EXECUTIVE

触れた瞬間、誰もが驚きと可能性を感じる技術。
それを自信にさらなる研究開発へ突き進む

株式会社ミライセンス

中村氏の発明と出合い、視覚から触覚のVRの道へ

次世代に向けた最先端の技術を開発したい――。香田氏は、その思いを胸に筑波大学を卒業後、当時、3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)エンジンを開発して間もない株式会社ソニー木原研究所へ入社した。そこで14年間、3DCGの研究開発に従事し、ゲーム機器や世界初の3次元カーナビなどの開発プロジェクトに参加。

退社後は3DCGのさまざまな応用技術を研究開発する技術系ベンチャー3社を起業するなど、視覚を利用したVRの開発畑を駆け抜けてきた。その香田氏が触覚を再現する3D触力覚技術に特化したミライセンスを設立したきっかけは、ミライセンスのファウンダーである中村氏との再会だったと振り返る。

「実は中村は大学の研究室の先輩。卒業後はぱったりと会うこともなくなっていたのですが、2010年のCEDECの会場でばったり顔を合わせたんです。中村は産業技術総合研究所の研究員として3D触力覚技術のベースとなる錯触力覚技術のプロトタイプをすでに完成させていて、これはVRの世界に新たな価値とマーケットを創出する技術だと直感しました」。大学時代、研究を共にした二人は、実に17年ぶりに再びタッグを組み、次世代に向けた技術開発の道を歩み始めた。

海外逆輸入作戦で技術の売り込みに成功

視覚や聴覚を利用したVR技術は、世界中で研究し尽くされ、行き着く先へたどり着いたともいわれる。その一方で、未開拓で残っているのが触覚を再現するVRの世界だ。香田氏は、「視覚と聴覚のVRが発達すればするほど、人間は『触れない』ことにもどかしさを感じる。その欲求を中村の技術が可能にした。一度体感したら誰もが『おおっ』と驚く技術です」と自信を見せる。

しかし、技術を発表した当初、産業界の反応はにぶかった。世界初の技術として国内外のメディアからの注目は集めたが、その「世界初」がネックだったという。

「日本の産業界は保守的な面があり、新しい技術に対して実際にビジネスとして成り立つか、まずは様子を見るところがあるんです。そのため、プレゼンを重ねてもビジネスに結びつく手応えがつかめずにいました。じゃあどうしようとなったときに浮かんだのが、海外逆輸入作戦。アメリカ・シリコンバレーを活動拠点に、現地のハイテク企業やサービス会社へ技術の売り込みを行うべく、すぐに渡米しました」

アメリカでは驚くほどの反響があった。営業先でプレゼンを行うと翌日には企業の経営者クラスに伝達され、大企業の社長・副社長自ら「明日行くから技術を見せてほしい」と連絡が入る。そのレスポンスの速さにこの技術の持つビジネスポテンシャルの高さを感じ、自信につながった。

さらに全米民生技術協会主催の見本市「CES」、世界最大のゲームカンファレンス「GDC」への出展を通して、日本の国内メーカーに自社の技術力を広く伝えることにも成功。香田氏の、起業家としての知恵と手腕が発揮された瞬間だった。

3D触力覚技術は再現から記録へ

香田氏は「僕が横軸なら、中村は縦軸なんです。広い視野でマネジメントしながら事業をスピーディーに横展開していく僕に対し、中村は研究者としての鋭い嗅覚で未来に向けて今やるべき研究を深掘りしていくタイプ。そして、この十字型に社員のバイタリティーとアイデアが交わると、それをエネルギーにミライセンスは前進していきます」と熱く語る。

現在、ミライセンスは新事業として触覚を記録する技術の開発をスタートさせた。「これが実現すれば、宇宙飛行士しか触れなかった月の石の感触や、特定の人しか扱えない国宝の器を触った感覚を世界中の人々と共有できます。また、優秀な外科医の手術中の感触を記録することで研修医の育成にも役立ち、医療分野に貢献できるかもしれません。この技術もおそらくは5年後には実現しているでしょう」と笑顔を見せる。

「次世代に向けた最先端の技術を開発したい」と心に誓った香田氏の思いは、今も揺らぐことなく未来の先へ先へと向かっている。