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EXECUTIVE

苦労したからこそ伝えたい
モノづくり・セールスの厳しさと打開策

株式会社DG TAKANO代表取締役高野雅彰

運命かDNAか――
アドバンテージを生かしてモノづくりに参入

最大節水率95%ながらマシンガンのように強く打ちつける洗浄力を誇る「バブル90」。その秘密は、放水される水泡の量に変化を与え、水泡を汚れに連続して打ち付ける脈動流。この「バブル90」を開発したDG TAKANOの高野氏は「私は金属加工工場の3代目ですが跡を継ぐつもりはありませんでした。サラリーマンにも魅力を感じていなかったので、別の分野で独立したかったんです」と語る。

大学は経営者になるために経済学部へ。卒業後、大企業に就職する同級生たちとは違い、一代で築いた気鋭のIT企業に入社している。学生時代から目的が明確で、達成のためのプロセスをしっかりと考える理論派だった。DNAがそうさせたのか運命に導かれたのか、結果的に節水ノズルを自ら開発しモノづくりの会社を立ち上げた。

「職人としては素人だった」と語る高野氏が開発に成功したのは、環境に恵まれていたことも大きい。一般的にモノづくり系のベンチャー企業は工場設備を整えるのが一番のハードル。「最初の設備投資が何億とかかるので、回収できずにつぶれてしまう会社が多いんです。私の場合は最初のアドバンテージがありました。50年続いている父親の工場設備と加工のノウハウがありましたから」。好条件を生かして開発を進め「これなら参入できる」と感じて試作を始め、見事に成功したのだ。

起死回生の策を講じ、売り上げが20倍に

「自分の商品は自分の手でエンドユーザーに届ける」。高野氏がこの考えに至ったのは、「“超”モノづくり部品大賞」の大賞を受賞した後、販路に苦しんでいたときだ。DG TAKANOを立ち上げたもののセールスに苦戦し、商社にも声をかけたが「たくさんある商材の一つではどうしても積極的に売ってもらえない」。そう痛感していたときに、顧問弁護士に東京のあるベンチャー企業の社長を紹介された。

都内に居酒屋やホテルなど数店舗を手がけていた彼は「うちの居酒屋で試しにバブル90を使ってみよう」とテストを買って出てくれたのだ。すると17万円かかっていた水道代が6万円に。「驚いた彼は『販売先は環境系企業ではない。居酒屋や外食産業にするべきだ。直接自分たちで売りに行こう』と言ってくれて、販売専門のDG SALESを東京・上野に立ち上げました」。節約や節水は企業がトップダウンで行うこと。担当者レベルではなかなか話が進まないが、外食産業系のオーナーは試してみて効果が出れば導入してくれる人が多い。

「5~10店舗くらいを経営しているオーナーだと特に話を聞いてくれやすかったですね。製品を無償で設置してテストしてもらって『良ければ導入してください』と言っていました。節水効果には自信がありましたから」。エンドユーザーと関わり設置まで自分たちで行い、少しずつ知名度が上がってきたDG TAKANOの売り上げは、前年比の20倍になり、ついに花開いた。

モノづくりベンチャーをサポートしたい

海外参入も本格的に視野に入れ、前進を続ける高野氏。東京で商談や打ち合わせをこなし、大阪の工場で機械を回すという日々を送る。東京と大阪は6:4程度。職人は高野氏一人のためモノづくりのためだけに大阪へ戻ることが少なくない。さらなる飛躍と仕事の効率化、そしていい人材確保のために本社、工場ともに東京へ移す決心をした。

「うちは大きな規模を目指しているのではありません。少数精鋭でどんどん新製品を生み出す会社を目指しています」。東大阪で力を蓄え、満を持して東京へ。地方のベンチャーが憧れるストーリーだろう。しかし、ここまでの道のりは決して平たんではなかった。だからこそ高野氏は「モノづくりベンチャーを応援したい」と語る。「モノづくりベンチャーが何につまずき、どんな壁にぶちあたって落とし穴に落ちるのか。すべてを経験した自分にしかできないサポートがあると思っています」

アイデアがあるのなら技術者と組んで製品化できるようなプラットホームをつくりたいと高野氏は考えている。その一端が、新製品「オゾン水生成蛇口」を学生と完成させる取り組みだ。

「たくさん失敗もしたけれど、うちはモノづくりベンチャーとして成功した方だと思います」という高野氏。自社のようなベンチャー企業が次々と出てきてほしい。自分が経験した失敗はしてほしくない。そのためには、社外のベンチャーに対するサポートも惜しまない。高野氏が見据える未来は、日本のモノづくりベンチャーそのものの底上げだ。