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EXECUTIVE

自動車産業の関連企業が共存共栄するビジネスモデル

APTJ株式会社代表取締役会長兼CTO高田広章

コンソーシアムから企業へ

日本を代表するソフトウェア研究者である高田氏。コンピューターの魅力に目覚めたのは中学1年生のとき。先輩が自作したマイコンを見て興味を持ち、自身も3年かけてマイコンを自作したという。

大学に入ってからはソフトウェア開発のアルバイトに明け暮れた。大学院でTRONプロジェクトの提唱者である坂村健教授(東京大学大学院情報学環教授)に師事し、以来、組み込みシステムの研究に心血を注いできた。

2003年にはITRON仕様のソフトウェア開発を行うTOPPERSプロジェクトの会長となり、2006年には名古屋大学に誕生した組込みシステム研究センター(NCES)のセンター長に就任。ここから、車載ソフトというテーマへの本格的な取り組みが始まった。

「車載ソフトは安全性やセキュリティーなどの信頼性に関する要求がきわめて高く、一つの企業や大学で開発するのは困難でした」。そこで高田氏が発起人となり、2014年にNCES内に「APコンソーシアム」を設立。ところが、前述の「日本の自動車産業への危機感」から、よりスピーディーな開発を行うにはコンソーシアムよりも企業という形態の方が適していると判断し、APTJの設立を決意した。

自動車の未来をつくる人づくり

同社がめざすのは、日本の自動車関連企業が共存共栄する未来である。それだけに、すべてを自社内で完結するようなビジネスモデルは考えていない。ソフトウェアの開発は彼らが行い、販売や技術指導、メンテナンスなどはパートナーであるソフトウェア会社が行う。

「現在、約40名という小所帯で開発をしているため、顧客対応まで引き受けられないのが事実。しかし、それよりも車載OSの黎明期である今日、われわれは一気に急成長しなくてはなりません。そのために、利益や人的リソースのすべてを『次』の研究開発に割り当てる必要があるのです」

また日本の自動車産業の未来のために、同社にはもう一つの重要な使命がある。「それは、次世代の車載ソフトウェアの開発を担う人材の育成です」。現在、約40名のエンジニアは全員がパートナー企業からの出向者。彼らはAPTJで最前線の開発を経験し、エンジニアとして急成長する。

そして数年後に在籍していた企業に戻り、開発部門を担うことになる。そのとき、日本の自動車産業はソフトウェアの開発で世界と戦えるようになるのだ。それが「未来の日本の自動車業界を支える」という高田氏が描いたビジョンでもある。

APTJの未来を支える人を育てる

しかし実際問題として、APTJ自身もオリジナルの技術を社内に蓄積させなくてはならない。そのためには、全エンジニアが出向者という状況は決して好ましくない。また今後、自動運転をはじめとする未来のテーマに挑むには、より多くのエンジニアが必要となる。そこで同社は、プロパーのエンジニアの採用と育成にも積極的に取り組んでいく。

「これから企業規模がどれだけ大きくなっても、全エンジニアの20~30%がプロパー社員という状態をキープする計画です」。求める人物像については、AUTOSARの開発経験がある即戦力のエンジニアが理想だが、世界的に自動車業界でソフトウェアのエンジニアが不足しているなか、そこまでは望まない。

「求めているのは、物理現象としての自動車を理解しているエンジニア。あるいは、仕様書を見て、完成品をイメージできるエンジニア。自動車業界経験者でなくても構いませんし、組み込みソフトの開発経験がなくても構いません」

しかしどのエンジニアにも、絶対に必要な条件はある。「それは、自分たちが日本の自動車産業を支えていくんだという『気概』を持っていること。そんな人に出会えることを楽しみにしています」