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HIGHLIGHT

次世代型放射線検出器の開発に挑む、静岡大学発ベンチャー

株式会社ANSeeN

「見ることができないもの」を見えるようにする。
放射線の力で「安心」を提供する

ANSeeNは、主に放射線検出器の研究と開発を行っている。大学で育まれた種を積極的に社会へ還元するよう取り組む静岡大学発のベンチャー企業だ。放射線検出器は、福島第一原子力発電所の事故以降、ガイガーカウンターなどの線量計として急速に注目を集めたが、これまでも医療現場や産業における非破壊検査、手荷物検査などのセキュリティーチェックなど、幅広い分野で使われてきた。

社名の「ANSeeN(アンシーン)」の由来は、「見えない」という意味の英語の「unseen」と日本語の「安心」を掛け合わせてつくった造語だ。肉眼では見ることができない不可視光であるX線の透過力を活用して、直接「見ることができないもの」を見えるようにすることで医療やセキュリティーなどの分野に応用し、広い意味での「安心」をカスタマーに提供したいという意味が込められている。

現在、特に期待されているのが、医療分野における次世代型X線CTの開発だ。「次世代型のX線CTに求められるものは、低被ばく化、材料識別などの高機能化、シャープな画像取得のための高コントラスト化の3つです」と語るのは、代表取締役の小池昭史氏。こうした次世代のニーズを実現するものとしてCdTeという化合物を用いた半導体放射線検出器を、ANSeeNのCTOを務める青木教授とともに8年にわたって研究を続けてきた。

高い放射線検出効率と吸収率を誇るCdTe。
さらに高機能化させる独自の技術とは

これまで放射線検出器に使われてきた半導体の代表的なものは、シリコンの一種やゲルマニウムというものだったが、これらは放射線に対する感度が低く、液体窒素を使って冷却しておく必要があるなど、特殊な環境での使用に限られてきた。また、放射線を可視光に変換するシンチレータを用いる検出器の場合は、変換するために真空管で光を増幅する必要があり、小型化が困難だった。

「高い放射線検出効率を誇るCdTeを半導体として使えば、少ない放射線でも非常にシャープな画像を得られるようになります。また、放射線の波長を見分けることが可能なために電子密度の違いによる物質の材質判別や厚さ、密度、濃度などをより鮮明に計測することも可能になります。また、CdTeは室温で利用できるうえに、放射線を直接電気信号に変換するので光電変換機器が不要になります。これらの特性により、低被ばく化と高機能化を実現でき、放射線防護のための建屋などの設備にかかる費用を抑えた低トータルコストの検出器の製作が可能となるわけです」と小池社長は説明する。

CdTe放射線検出器をさらに高機能化するのは、青木教授がCdTeとともに研究を続け、ANSeeNが開発を進める独自のフォトンカウンティング技術だ。一般的なCT画像は、おおよそ物質の密度に相当するCT値を2次元マッピングすることで断層像を得ていて、通常は白黒画像の濃淡で表される。最近では、このCT 値をコンピューター処理してカラー画像で表示するものもあるが、あくまで便宜的に色をつけたものにすぎない。

「フォトンカウンティング技術を用いれば、物質のエネルギー情報をピクセルごとに取得できるので、カラー化が実現できます。医療現場への応用では、CT検査だけでガン細胞の良性、悪性が判別できるようになるでしょう。空港の手荷物検査でもいま以上に危険物とそうでないものの正確な判別が可能になるのです」と小池社長は語る。

大学との連携で社会ニーズをカタチに

現在の健康診断でわかる情報は非常に限られている。だが、CdTe放射線検出器が実用化すれば、低線量でさまざまな診断が可能になり、将来的には、現状の人間ドック並みの診断を国民全員が受けることも難しいことではなくなるだろうと小池氏はいう。「医療のクオリティーが格段にあがります。現在の医療診断時に照射されている線量の約 1/1,000で測定が可能になると考えており、安全性の面から特に、小児医療の分野からの問い合わせが多いですね」

静岡大学電子工学研究所の青木研究室では、文部科学省「知的クラスター創成事業」やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「産業技術研究助成事業(現:先導的産業技術創出事業(若手研究グラント))」などを活用してCdTe放射線検出器を基礎・実用の両面から研究してきた。ANSeeNの起業にあたっては、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の「独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進」事業を活用し、2011年4月に設立した。

「起業したことで、研究の成果を実際に機器としてつくって完成させ、その機器で計測してみるというサイクルができるので、研究自体のサイクルも以前より早まりました。社会のニーズに合わせて即座に対応できることが、大学発ベンチャーであることの最大の強みだと思います」と小池氏はいう。

CdTe放射線検出器は実用化に向けて開発を続けている段階だが、2020年をめどに独自のX線のカメラをつくることがANSeeNの目標だ。創業間もないベンチャー企業の真価が問われる。